嫁脅し肉附きの面



むかしむかし室町時代の頃、蓮如上人とおっしゃる聡明で有り難いお坊さんがいらっしゃいました。蓮如上人は、越前吉崎(今の福井県あわら市吉崎)という場所に住んでいらっしゃり、いつも仏さまのお話をされていました。そのお話を聞こうと、たくさんの人が集まって吉崎の町は大賑わいしていました。
その町に、お清という若い女性がいました。彼女はお寺参りが大好きで毎晩毎晩、蓮如上人のお話を聞きに通っていました。しかし、それを良く思わない人がいました。義理のお母さんです。その義母はお清にお寺参りをやめるように何度も言い聞かせますが、お清はやめようとしません。そこで怖い仕掛けをすることにしました。
ある夜のこと。義母は暗い林のなかで息を潜めて、お清がやってくるのを待っていました。顔には怖い鬼の面をかぶり、手には鎌を携えて。この姿でお清を驚かせば、お寺参りに行くことが怖くなって、行かなくなるに違いないと考えたのです。いよいよお清がやってきました。タイミングを見計らって勢いよく飛び出し、鬼の姿でお清の前に立ちはだかります。ところがお清はまったく驚くそぶりをみせません。それどころか、真っ直ぐに鬼をみつめてこう言います。「私を食べるのであれば食べなさい。仏さまからいただいた信心はどんなことがあっても奪われることはないのですから」と。そしてその場で「なもあみだぶつ。なもあみだぶつ」と念仏を称えるのです。
作戦が失敗して慌てふためく義母は、急いで夜道を駆け抜け家に戻りました。家について、お清にバレないようにと急いで鬼のお面を外そうとしますが、お面が顔にぴったりと張り付いてしまっていて取ることができません。予想もしていなかった事態にさらに慌てふためき、何度も外そうと試みますが、顔の皮が引っ張られて痛くなるばかり。困り果てているところへ、とうとうお清が帰ってきました。
お清は、自分を驚かせた鬼の正体が義母だと知って驚き、そのお面が顔にくっついて外れないということにまた驚きます。心配するお清に義母は全てを打ち明けます。
「自分が悪かった。お寺参りをしてみんなと仲良くするあなたが妬ましかった。このお鬼の顔は私の心そのものだ。」
お清は肩を落とす義母の手をとって、蓮如上人のもとへ連れていきました。一部始終を聞かれた蓮如上人は、優しくこうおっしゃいました。
「鬼のお面が、本当の自分の心を教えてくれたのですね。本当の自分の心を知らされることは大切です。仏さまは、そんな鬼の心を持ちながら生きている私たちをそのまま抱きとって、ともに生きてくださいますよ」
話を聞いていた義母の目から涙が一筋流れました。それは仏さまのお心が嬉しくて流れた涙でした。涙が流れたと同時に顔にくっついていた鬼のお面がポロッと外れたのでした。それからというもの、お清と義母は二人仲良く吉崎のお寺に参るようになり、仏さまのお心を喜ばれたのでした。
4コマ漫画:Ren
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