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日向ぼっこ

4月25日昼さがり。飼い犬のアキを連れて玄関を出ると、肌触りが良くふんわりとして優しい日差しにたっぷり包まれた。内と外の気温がまったく同じで変な感じ。小さく風が吹く。高台のお寺から見える家々の庭には、ピンクや赤や白の花が咲いていて、国道3号線を挟んだ向かいの家は数年前におばあちゃんが亡くなり空き家になっているが、今年もちゃんと紫色の藤の花が咲き始めた。遠くに住んでいるご子息に、「今年もちゃんと藤の花が咲いてますよ。この前まではハクモクレンも咲いていましたよ。皆さんが住んでいた頃と同じように咲いてますよ」と伝えてあげたい。

濡れ縁に腰を下ろし、アキを横におく。本日ここは、日向ぼっこの特等席。二人して仰向けになったり、うつ伏せになったり、横になったり、肘枕してみたり。冬の間、どこにいても日向を探していた犬は目を細め「とっても気持ちいいねぇ」と言わんばかりの表情。しばらくすると犬の背中は布団を干したようなとってもいい香りになって、私も身体から悪いものがスッと抜けたような気分になって、日向ぼっこではなく、天日干しだなと思う。

私はウトウトしながら、昔、友達のIちゃんと飲んだときのことを思い出していた。赤い壁にバンドマンたちの写真やポスターやレコードが飾られた、ソウルミュージックが流れる天文館のBARだった。カウンター越しに座る店主が、初めてきた私にも「ノブくんはさぁ」と軽快に話を振ってくれるのが心地よかった。私たちは横並びでハイボールを飲んでいて、彼女は膝にダックスフンドを抱いていた。深夜1時を回る頃、それまで転がるように話をしていたIちゃんは、急にゆっくりした口調になって「この子の前にね。飼っていた犬もダックスでね、その子が死んじゃった時、動かなくなった子を抱っこしてズブズブ泣きながら、犬が生まれ変わってまた会いに来てくれるという映画(確かワンダフルライフだったか・・)を見たんだぁ」と言った。私は3秒くらい時間をあけて「それって、とっても悲しいね」と月並みの言葉を噛み締めていうと、Iちゃんは「うん」と言い切ってから「それで、亡くなった子と同じ犬種、同じ毛の色、亡くなった日の近くで生まれた子を探してね。それがこの子なの。」と言ったのだった。

やんわり目を覚まし、日差しに目が慣れると、アキが「もう日向ぼっこは十分です。そろそろお家へもどりましょうよ。疲れましたよ。」と言わんばかりの表情で私を見ていた。この子は11年前にうちにやってきた。秋にもらってきたからアキと名付けた。チワワとダックスを親に持つ小型犬で、子犬の頃は鼻がぺちゃんこで、黒い毛が混ざっていて、お腹は桜の花びらみたいな薄ピンク色で、匂いはアーモンドのようだった。成長して茶色の毛ばかりになると、定食屋のおねえさんから焼きたての食パンみたいですねといわれた。あっという間にもう60歳。この頃は寝てばかり。誰か来ると親の仇のように吠えていたのに最近はサボりがち。左目の中央は白い羊羹みたいに白濁としてきて、その目はもうほとんど見えていないらしい。散歩に連れていっても「もう歩きたくありません」とぐっと足を踏ん張り、ピンと張ったリードの先で首輪に嵌ってブサイク顔。「戻ろうか」というとそそくさ踵を返す。歳には勝てないみたい。この子ともっと思い出をつくらなきゃ。

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